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「MIRRORLIAR FILMS」次なる試みは“地域と連携した映画製作” 建材メーカーがプロジェクトを支援する理由とは?

映画

提供:MIRRORLIAR FILMS PROJECT

  • (左から)吉野石膏株式会社の須藤潮副社長と「MIRRORLIAR FILMS」伊藤主税プロデューサー

     才能あるクリエイターの発掘・育成を目的に映画製作のきっかけや魅力を届けるために生まれた短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」。過去Season 4まで制作され、大きな話題と評価を得てきたが、Season5からは、「地方創生応援税制(通称:企業版ふるさと納税)」の制度を活用し、地域と連携した映画製作を行う新たなステージに突入する。そこでクランクイン!は、秋田県秋田市とタッグを組んだSeason5に支援を行った吉野石膏株式会社の須藤潮副社長と、「ミラーライアーフィルムズ」を運営する株式会社and picturesの伊藤主税 代表取締役/プロデューサーにインタビューを実施。本プロジェクトの持つ意義や、参加理由、映画を含むエンターテインメント業界への希望と未来についてたっぷりと語り合ってもらった。

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    MIRRORLIAR FILMS FESTIVAL 2023 Special Movie by THINK AND SENCE
  • 「ミラーライアーフィルムズ」が他の映画と違うところ

    ――過去Season4まで制作された「ミラーライアーフィルムズ」ですが、改めて企画の概要について教えてください。

    伊藤プロデューサー(以下:伊藤):本プロジェクトは、俳優の山田孝之さんと阿部進之介さんらと生み出したプロジェクトです。機材やテクノロジーの進化によって、映画製作が身近になった昨今、映画を使った自己表現をしたいと思う才能ある若手クリエイターをしっかりと発掘していこうという意図を持って始めた企画で、公募から選出された12作品を含む年間20本のショートフィルムを1年かけて上映していきます。

    「MIRRORLIAR FILMS Season1」初日舞台挨拶の様子

    ――「ミラーライアーフィルムズ」が従来の映画製作と違う点はどんなところにありますか?

    伊藤:Season5からは、企業版ふるさと納税の制度を活用した映像制作が特徴です。今後は秋田県秋田市、愛知県東海市など3つの地域で撮影を行うことが決まっているのですが、映画をきっかけにした地方創生や人材育成、教育を目的とした事業を地域行政内に立ち上げ、そこにプロジェクトに賛同していただける企業様から寄付をいただいて映像制作をするというのが大きな特徴になっています。

    ――官民一体で映画製作をするというイメージですか?

    伊藤:そうですね。ロケ地の行政と民間の方々、そして大学生と実行委員会を作り運営していきます。そうすることで、撮影が終わったあとも、目的意識を共有したコミュニティや人材が残ることになります。また昨今の日本では、各映画関連企業が出資をしあう製作委員会方式で映画が作られることが多く、出資企業以外の方々が作品にかけてきた時間や努力に見合った収益を受け取りにくい現状があります。今回は自治体への企業版ふるさと納税を原資として制作するもので、各所への収益分配を計画する事が出来ます。現状では、地域の実行委員会に20%、監督を含めたクリエイター・俳優に20%収益分配する事を公表しており、その収益金でそれぞれが新たなチャレンジが出来るサステナブルな仕組みを目指しています。

    もう一つ大きな特徴は、映画館以外の場所でも上映を考えています。日本には映画館のない地域も多く存在するので、情報格差や文化格差が生まれないように、JOYSOUNDなどのカラオケ店や文化会館など、2000箇所を超える場所で映画を届けていこうというのも「ミラーライアーフィルムズ」の大きな特徴です。

    株式会社and picturesの伊藤主税プロデューサー
  • 住宅建材を扱うの会社がなぜ文化芸術の支援を行うのか

    ――こうした「ミラーライアーフィルムズ」の試みに吉野石膏さんが賛同しようと思った大きな要因は何だったのでしょうか?

    須藤潮副社長(以下:須藤):第一は人材の発掘です。私は60歳になったのですが、あるときから人間というのは新しいものを吸収するのをやめてしまい、過去の経験から推測して物事を判断するようになるんですよね。ある意味で年を取った人間は、新しいものの担い手にならない。そんなとき、何ができるかと考えると、次世代を支援して機会を与えていくことだと思ったんです。それだったら私でもできると思い、この企画に賛同しました。

    吉野石膏株式会社の須藤潮副社長

    ――――もともと文化や芸術に造詣が深かったのでしょうか?

    須藤:弊社は以前から美術振興財団を持っております。そこでも若手の才能ある人たちに作品発表の場を提供しています。若い方々というのは、自分に才能があっても、それに気づかない方がたくさんいます。財団で若い画家を支援するのと同じように、映画というメディアでも、新しい文化の担い手に才能を発揮する場を提供したいという思いは強いです。もう一つ、社会との対話というのも大きな目的です。絵を通じて社会と話をしていこうという思いは、映画も同じなのかなと。吉野石膏という会社の魅力を若い世代にも知ってほしい。そのきっかけになればいいなという思いもあります。

    ――須藤副社長にとって映画というメディアの魅力はどんなところにありますか?

    須藤:ちょっと大げさな物言いかもしれませんが、絵画というのは、その時代の背景や息吹を映し出すもの。そして恐れ、憧れ、嫉妬という人間の感情を絵に込めて未来に運ぶことができる。それは映画も同じだと考えます。映画を通じて、現代に起こっていることや人々の感情を伝えられたら素晴らしいなと。タイムカプセルみたいなものですね。

    ――その時代に感じた感情というものは、なかなか未来に伝えることは難しいものですからね。

    須藤:これも大げさな話ですが、神様が唯一人間という動物に与えたものが感情を伝えることだと思うんです。もちろん動物にも、仲間意識や相手を好きになることなど、いろいろな感情があることは研究で分かっていますが、その時の気持ちを固定化して伝えることができるのは人間だけ。その伝達手段が絵画や映画だと思うんです。それを支援して盛り上げていけるというのは、いまを生きる私たちの務めであり夢だと思っています。

    吉野石膏株式会社の須藤潮副社長

    ――今後もいろいろな形で映画文化発展のために支援をしていきたいとお考えですか?

    須藤:私たちが行っている企業活動は、安全で快適な住空間を提供することで社会に貢献するという企業としての意義がありますが、お客様に提供させていただいた売り上げのなかから、文化支援を行うというのは、非常に大事なことだと思っています。感謝の気持ちをこうした形で示すことができるというのは、非常に喜ばしいことだと考えています。

    ――今後「ミラーライアーフィルムズ」を通して実現したいことはありますか?

    須藤:学生さんとのコラボですね。弊社は秋田市にも工場はありますが、学生さんに秋田市の工場に行っていただいて、弊社の商品を評価していただくとか。思いというのは受け取る側、発する側の両方があるので、受け取る側がどういう思いを持っているのかは知りたいですね。

  • 来春公開「Season5」 ロケ地を秋田市に決めた理由は?

    ――Season5は竹中直人監督作品、大橋裕之監督・脚本作品の2作が発表されています。秋田県秋田市で撮影されたということですが、地域選定はどのように行ったのでしょうか?

    伊藤:映画製作をきっかけにしたシティープロモーションや人材育成、発掘に賛同してくださる地域であるということがとても大切な要素だと思っています。映画製作は“人がすべて”というところがあるので、街の未来を想う方々や活気がある若いクリエイターたちがいる地域などを調べて、選定させて頂いています。秋田市は、2019年に公開された藤井道人監督の『デイアンドナイト』を秋田県の複数地域で撮影させて頂いた時に、文化芸術を軸としたシティープロモーションや人材育成、発掘にとても力を入れていると感じたことがきっかけになりました。そして、市に大学が6つあり、大学生たちの活動が非常に充実していること、街を想い様々なチャレンジをしている官民の素敵な方々や、秋田発のクリエイター集団アウトクロップさんがいらっしゃったことが大きいです。

    株式会社and picturesの伊藤主税プロデューサー

    ――実際の撮影はいかがでしたか?

    伊藤:このプロジェクトの意義にぴったりの場所でした。竹中監督や大橋監督作品に出演する又吉直樹さん、伊藤沙莉さん、山田孝之さんをはじめとする出演者の方々、映画制作チームと行政の方々、そして大学生が一丸となって理想的な映画制作ができたと思っています。映画制作の過程を大学生の皆さんに体験してもらうことを、竹中監督、大橋監督も理解してくれていたので、カチンコを渡して打ってもらったり、近くで監督の演出を体感してもらったり、モニターを皆で見ながら意見を伝えあったり、お弁当の準備や暑さ対策など制作サポートなど含め、若い子たちを“チームの一員”として撮影現場に入れてくださったんです。プロジェクトの目的を理解してくださったクリエティブチーム、関係者の皆様に心から感謝しています。またプロの現場で勉強した学生たちが、主体的に映画を制作するワークショップも行いました。ここで生まれた絆や学生たちの経験という財産を、次の挑戦に活かそうという動きが出てきています。

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    【記者発表会見】ミラーライアーフィルムズ Season5 in 秋田市 未来創造人材育成・映像プロモーション事業
    【記者発表会見】ミラーライアーフィルムズ Season5 in 秋田市 未来創造人材育成・映像プロモーション事業
  • ――須藤副社長は秋田という地域で映画を作るということにどのような感想を持ちましたか?

    須藤:日本という国は、方言の多さからも分かるように、各地にいろいろな文化がありますよね。外国からの観光客も増えていますが、どんな地域に行っても、その土地ならではの文化を称賛してくださることが多い。秋田にもその地域ならではの素晴らしい文化があります。国際化というのも大切なことですが、その地域独特の文化を再認識して、発展させていくことはとても大切なこと。さらに企業版ふるさと納税という仕組みによって、企業の負担の何倍もの経済的な効果もある。今後もいろいろなプロジェクトに参加したいと思っています。

    ――撮影には足を運ばれたのでしょうか?

    須藤:今回の秋田市での撮影には、残念ながらスケジュールの都合で足を運ぶことができませんでした。でも私は40代前半のとき、下北沢、赤坂、新宿の小劇場のお芝居を3本ほど支援していたことがあります。そのときは稽古にも行きましたし、上演も毎日観に行きました。そのときはプライベートなお金で支援したのですが、やってみるといろいろと面白い発見がありました。現場に行くのは大好きなので、次の「ミラーライアーフィルムズ」の機会には、若い方々と一緒に現場を共有し、さまざまなことに共感したいなと思っています。

    伊藤:お越しいただくタイミングが合わず残念でしたが、映画というのは、撮影と公開という2段階に分かれています。なので、公開のときには上映イベントなどでぜひ思いを伝えていただければと思っています。

    須藤潮副社長、伊藤主税プロデューサー

    ――最後に今後の展望をお聞かせください。

    伊藤:官民一体の学生を含めた実行委員会を映画制作をきっかけに組成する事ができました。僕らが帰ったあともこの様な共通の目的を持ったコミュニティができることで、サステナブルな活動に繋げていくことが一番大切なのかなと思っています。今回の秋田の事例は、今後の素敵なモデルケースになると思っていますので、しっかりとこの経験と事例を全国に広げていきたいと思っています。

    (C)2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

     “若い才能を発掘する”という「ミラーライアーフィルムズ」の理念。伊藤プロデューサーは「チャレンジした人でしか分からないことや学びがある。もちろん、失敗したり、辛い思いをしたりすることもあるかもしれませんが、やっぱり一歩踏み出したからこそ経験できることもあります」とチャレンジすることの大切さを述べると、須藤副社長も「若い人には自分で気づいていない才能や魅力があります。それを発見するためには、まずは行動。自分自身で未来をつかみ取っていってください。そのために支援ができることは喜ばしいです」と熱いメッセージを送った。

  • 「MIRRORLIAR FILMS Season5」2024年春劇場公開予定。
    【収録作品】大橋裕之監督作品キャスト:又吉直樹、山田孝之、伊藤沙莉 ほか / 竹中直人監督作品キャスト:スクールゾーン(橋本稜、俵山峻)、佐々木史帆、土佐和成 ほか / 榊原有佑監督『MIMI』キャスト:横浜流星、阿部進之介、森永悠希、山下幸輝、山田孝之 ほか
    製作:MIRRORLIAR FILMS PROJECT
    X(旧Twitter)/インスタグラム:@mirrorliarfilms



    伊藤 主税 (いとうちから) プロフィール
    1978年豊橋市生まれ。2013年映画製作会社「and pictures」を設立。映画製作をきっかけとした地域活性に取組む。主なプロデュース作品に『ホテルコパン』『古都』『栞』『青の帰り道』『デイアンドナイト』『Daughters』『ゾッキ』『裏ゾッキ』『DIVOC-12』『MIRRORLIAR FILMS』『∞ゾッキ シリーズ』『その声のあなたへ』、現在公開中の松本優作監督、東出昌大・三浦貴大W主演『Winny』。待機作に、10月27日公開の石橋義正監督、竹野内豊・山田孝之W主演『唄う六人の女』。

(C)2024 MIRRORLIAR FILMS PROJECT


取材・文:磯部正和/写真:高野広美

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