元宝塚月組トップ娘役・海乃美月、退団後の充電期間を経て改めて気づいた舞台への思い

昨年7月に宝塚歌劇団を退団した、元月組トップ娘役の海乃美月。退団後初の舞台として、3月10日に幕が上がるミュージカル『ボニー&クライド』で、ヒロインのボニー役に挑む。実在した伝説のギャングカップルの生きざまを描く本作で新たな一歩を踏み出す海乃に、作品に懸ける思いや退団後の心境などを聞いた。
【写真】海乃美月、凜とした美しさ! インタビュー撮りおろしショット
◆ボニーは「揺るがない強さが魅力」
1930年代アメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返した実在の人物、クライド・バロウとボニー・パーカー。社会からはみ出した彼らの無軌道な生き様は、禁酒法と世界恐慌の下、鬱屈した雰囲気のあった当時のアメリカの民衆から英雄視されることもあった。そんな2人の出会いと逃走を描いた映画『俺たちに明日はない』(邦題/1967年)は、アメリカン・ニューシネマの代表的作品として、今日に至るまで高い人気を誇る。
『ジキル&ハイド』『笑う男The Eternal Love ‐永遠の愛‐』『デスノートTHE MUSICAL』ミュージカル『ケイン&アベル』で知られる作曲家フランク・ワイルドホーンが手掛ける本作は2011年にブロードウェイで上演、2012年には日本で初演。その後ブラッシュアップされた本作は2022年にウエストエンドで再演され、今回、満を持して新演出版で届ける。第48回菊田一夫演劇賞を受賞した瀬戸山美咲の上演台本・演出により、クライド役で柿澤勇人と矢崎広、ボニー役で桜井玲香と海乃美月がそれぞれWキャストを務めることも話題だ。
――退団後第1作となる『ボニー&クライド』。ご出演が決まった時の心境はいかがでしたか?
海乃:宝塚でも上演された作品でしたし、楽曲が素敵だということも知っていたので、非常にうれしかったです。雪組公演は映像で拝見しまして、本当に楽曲が素晴らしくて、その分難易度も高いなと感じたことを覚えています。
今回、映画を見返したり、彼女たちがどういうふうに生きていたのかという史実を調べていく中で、普通に生きているだけじゃ体験できないような人生を、この作品に出ることで味わわせてもらえるような気がしてより魅力を感じました。
――もともとボニーとクライドに対してはどんな印象をお持ちでしたか?
海乃:強盗をしながら殺人も犯して2人で逃げていたカップルというイメージと、それにプラスして、みんなが閉塞感を感じているあの時代でヒーローとされていたくらい、人々の理想になっていったと言うか、かっこいいな、たくましいなと思っていました。
――演じられるボニーは、どんな女性だと捉えられていますか?
海乃:幼少期から詩を書いていたりと想像力が豊かなのですが、4歳の時に父親を亡くして、クライドほどではないにしても、生活環境が良くなかった女性。「ちゃんとしていなさい」と言う母親の元で育ったので、抜け出したい思いが人一倍強かったんだろうなと感じました。クライドは怒りが原動力だと思うのですが、ボニーは映画スターを夢見ていて、憧れや夢が原動力だったんじゃないでしょうか。
加えて、勢いがある女性だなとも感じます。普通は自分が一緒に生きて行くと決めた人が途中で殺人を犯したら離れますよね。私だったら一線をひいちゃう(笑)。でも彼女には一回決めたことを貫き通す信念と、それ以上に強い愛があった。この人しか愛せないと思う、ひとつ決めたら変わらないところ、ほかの人みたいに揺るがない強さがボニーの魅力だなと感じています。
――ボニーは、単なる“悪女”と言ってしまえない魅力がありますよね。
海乃:多くの人を魅了する存在として、端から見たら悪女に見えていたかもしれないですし、実際悪いことをしていますが、ボニー自身は悪女になろうとは思っていなくて、「新聞の記事に載りたい」「有名になりたい」「自分の夢を追いたい」という感覚だったと思います。
――ご自身に、ボニーと似ているなと感じる部分はありますか?
海乃:私も結構頑固なんです(笑)。
――(笑)。トップ娘役時代には、強く芯のあるヒロインを演じられることが多かった印象があります。
海乃:そうなんです。トップ娘役になる前まではあまりそういう役に巡り合わなかったんですけど、就任してからは勝気で強気で姉御肌な役が増えました。私の性格として、ベースの部分ではそういう面を持っていたかもしれないですが、表現をするスキルがなかったので、すごく研究しましたね。
――演じられるキャラクターによって、普段の生活も影響されますか?
海乃:時と場合によるのですが、今回のボニーに関しては私生活から積極的に、作品に関する事を色々取り込んで行こうと思っています。今は、いろんなものに敏感に心が動く精神状態でいたいので、いつもだったら考え込むところもあえて考えずに感性を研ぎ澄ませようとしています。